インドの地図と位置や境界情報の妥当性

インド

はじめに

最近は現場の仕事から離れていますが、、仕事柄、土地利用とか森林被覆の解析などで、地形図(地図)や、GIS、衛星画像とかリモートセンシングデータをよく使います(別にGISや衛星画像解析の専門家ではないので、これらのアプリを操作するというのではなく、データやそれを加工・解析したものを使うだけです)。 最近は、ネット上で地図や関連する位置情報のデータの入手は簡単になってきましたが、セキュリティーの観点等から、紙面での入手や当局が認めたデータを入手するのが、難しい国が、まだそれなりにあります。 建前論になってしまいますが、今でも面倒な国の一つがインドかと思います(2017年時点なので、少しは改善されていることを願っています)。

座標が載っていない地図

インドで道路地図とか普通に入手できる地図類を買うと、ほぼまちがいなく緯度・経度といった座標がでていません。これは、国防・保安上の理由からで、さらに、外国人が緯度・経度付の地形図を入手するのは、結構大変です。2010年頃まではこれが顕著でした。

国境線および海岸線から20km位(正確な距離は忘れましたが)は、制限地区に指定されていて、その地区の地形図のデータベース化は原則禁止されていました。軍関係とか一部の機関を除けば、インドの役所であっても、地形図の電子データへのアクセスが出来なかったそうです。

今は、多少改善されているのでしょうが、2017年頃でも、当局が認めた正式な地形図(紙)やそのデータを入手するのは、やはり、難儀しました。データの出典等を問わなければ、GISデータ等で、入手は以前より可能になっていますが。

地図や座標情報はインドでは、センシティブなトピック

上に書いた例のように、地図とか座標情報というのは、インドでは、非常にセンシティブなトピックです。少なくとも、公式な場や政府の立場では・・・・
確か、2007年の春先に、インドに滞在していたときに、テレビで国防関係の大臣がGoogle Earthをすごく非難していました。「空港とか重要な施設がバッチリと写っていて、誰でもアクセスできるので、国防上の大問題で、けしからんと」。
イコノスのように有料で解像度の高い衛星データもありますけど、無料で誰でも手に入るというのが、余計に面白くなかったのでしょうね。
とは言っても、インターネットで検索すれば座標情報つきの地図情報や衛星画像なんて当時でも一杯ありましたし、インド国内からでもそれらの情報にはアクセスできました。今や、Google Mapを使っているインドの人々、一杯いますし。

これは、地形図と測量に関するインドの制度と法律が古いままで、現状に追いついていな端的な例なのでしょうけどね。

また、センシティブな割には、情報の正確さや妥当性に関しては、下の話のように、結構アバウトな状況にあるようです。

 

地図、森林計画書の面積集計表、GIS、現場、どれが正しい?

森林管理とか土地利用に関係する業務の場合、地形図やその電子データにアクセスできないのは非常に不便な状況です。もし、正確でない情報を基に、判断や意思決定をすると、土地問題というには、大きな揉め事になります。
15年位前に、インドのある州の森林局(日本でいえば林野庁みたいなところ)を訪問して、以下の事が判りました。

  1. 100年以上前の昔の地形図から測ったり、当時の測量により算出した国有林地の面積を集計した表はある(数字上、面積は判る)。
  2. だけど、これらの国有林地の位置、境界や地形図上の面積が、正確に判らない場合が多い。
  3. 一方で、個々の国立公園とか国有林の管理図等は、GISデータベースで構築していている(もしくは構築中)
  4. とはいえ、GISデータベースはあっても、州内の国有林地の数とそれぞれの大体の場所はわかっているけど、州全体として、国立公園や国有林地の位置関係とか境界の現状は(図面とかGISでは)正確には判らないとのことでした・・・
  5. それでいて、もっと驚いたことは、位置や境界の正確な情報を把握していない事を、あまり疑問に感じていない森林官が多いという事でした。彼らの言い分としては、「(古い地形図の情報とはいえ)管理図があるし、なにより現場に行けば判る」とのことでした。

上記、簡単に言えば、国有林の個々の面積の情報は存在し、データベースや地形図には、一応、位置や境界に関する情報が含まれているが、実際の国有林の現場の現状に沿った面積、位置、境界に関する情報の統合整理や確認が、殆ど出来ていないということです

土地を管理する当局としては結構、致命的な話です。(「林地の管理なんて、どこの国でも、そんなもんだよ」という意見も出てくるかもしれませんが。。。)

当時その森林局で地図やGISを扱う部署部署のGIS専門家が「問題を問題として捉えようとしていない」と憤慨していましたが、色々な齟齬があったようです。
例えば、

  • ある地域には森林計画書の面積表で、100年以上、200haの国有林地があるということになっていたが、現場踏査し、境界をGIS上に落としてみたら、実際の国有林は数haしかなかった。
  • 森林計画書で記載のあった国有林地は、実際には山2つ向こうの隣の管理区に存在しており、しかも管理計画の図面に掲載されていた形状と全く異なっていた。

上記のようなことが、山積みだったようです。

インドの森林計画書は州政府ではなく中央政府が承認した上で発行されている経緯もあり、長年、森林計画書の情報の正確さや妥当性をちゃんと確認していなかったことが背景にあるのかもしれません。

衛星画像、GIS、現場踏査(測量)を組わせて国有林地の境界や位置情報の確認はこの10年位でだいぶ進んだようですが、ベースとなる情報が欠落していたり、正確でなかったりで、全ての国有林地の位置、面積、境界情報を整理・統合することは、インドの多くの州でまだまだ先のようです。

 

まとめ

まとめというほどではないですが、正確な面積・位置・境界情報が判らなくても、この100年くらいは、大きな問題にはならなかったのでしょうが、IT化が進んだ現代では、土地利用に関して、ある程度、しっかりした根拠を持って、計画立案や事業実施していなかいと、余計な混乱、騒動のもとになってしまうかと思います。

完璧を求めるのは難しいですが、役所が発行した地図だからとか、GISデータだからと鵜呑みにしないで、確認、検証した上で利用していくべきかと思います。

 

 

 

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